組織コーチングLab

目標設定がチームを壊す — 営業組織のためのコーチング型目標管理

トップダウンの数値目標がチームを疲弊させる理由と、コーチングアプローチによる目標設定・管理の方法を解説します。

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渡邊悠介


「目標」がチームを壊している

期初の全体会議。経営層から示された売上目標が、部門ごとに分解され、チームに落ち、最終的に個人の「ノルマ」として割り振られる。メンバーは自分の目標数字を聞いて、小さくため息をつく。

この光景に見覚があるなら、あなたの組織では目標が人を動かす力を失っている可能性があります。

目標設定は本来、チームのエネルギーを一つの方向に集中させるための仕組みです。しかし、多くの営業組織で目標は「やらされるもの」になり、チームの活力を奪う装置に変わってしまっています。

トップダウン目標設定の3つの弊害

弊害1: やらされ感 — 自分の目標なのに「自分ごと」にならない

「この数字、どうやって決まったんですか?」という問いに、マネージャーが明確に答えられない。上から降ってきた数字を機械的に割り振っただけだからです。

メンバーにとって、自分が関与していない意思決定の結果を「自分の目標」として受け入れるのは難しい。表面的には「わかりました」と言いながら、心の中では「どうせ無理だろう」と思っている。この認知的なズレが、目標に向かうエネルギーを最初から削いでいます。

弊害2: 短期主義 — 今月の数字だけを追いかける

トップダウンで降りてくる目標は、多くの場合「月次」または「四半期」の売上数値です。すると、メンバーの行動は短期的な数字の積み上げに偏ります。

既存顧客への追加提案は手堅いからやる。新規開拓は成果が出るまで時間がかかるから後回し。顧客との長期的な関係構築より、今月のクロージングを優先する。合理的な判断に見えますが、中長期で見れば組織の競争力を削っています。

弊害3: チームの分断 — 個人目標が協力を阻む

個人ごとに数値目標が割り振られると、チーム内に暗黙の競争関係が生まれます。同僚の案件を手伝っても自分の数字にはならない。情報を共有すれば、自分の優位性が失われるかもしれない。

結果として、同じチームにいながら個人商店の集まりのようになる。チームとしてのシナジーが生まれず、「1+1=2」以上の成果が出ません。

コーチング型目標管理とは

コーチング型目標管理は、対話を通じてメンバーと目標を共創するアプローチです。トップダウンで「与える」のではなく、メンバー自身が「自分の目標」として引き受けるプロセスを設計します。

ここで重要なのは、コーチング型だからといって目標の数字が低くなるわけではないということです。組織として達成すべき数字は変わりません。変わるのは、その数字に到達するまでのプロセスと納得感です。

コーチング型目標管理の核心は、3つのポイントに集約されます。

  1. Why(なぜこの目標なのか)を対話する — 組織の戦略と個人の目標のつながりを、一方的に説明するのではなく、対話で理解を深める
  2. How(どう達成するか)を本人に委ねる — 目標数値は共有するが、達成方法は本人が設計する自由を与える
  3. 進捗を「管理」ではなく「支援」する — 数字の遅れを指摘するのではなく、障害を取り除く支援を行う

具体的な実践手法

Will-Can-Mustフレームワーク

目標面談で最も使いやすいフレームワークです。

  • Will(やりたいこと) — 本人が営業として実現したいこと、挑戦したいこと
  • Can(できること) — 本人が持っているスキル、強み、経験
  • Must(求められていること) — 組織として達成してほしい目標数値、役割期待

この3つの円の重なる部分に目標を設定します。完全に一致することは稀ですが、対話を通じて重なりを広げていくプロセスそのものに価値があります。

たとえば、あるメンバーが「大型案件に挑戦したい(Will)」と言い、マネージャーが「今期は新規開拓を強化したい(Must)」と考えているなら、「新規の大型案件開拓」という目標が共創できます。

OKRの営業組織への応用

OKR(Objectives and Key Results)は、もともとIntelで生まれ、Googleが広めた目標管理フレームワークです。営業組織に応用する際のポイントは以下の通りです。

Objective(目的)は定性的に設定する 「売上1.5億円」ではなく、「業界No.1のソリューションパートナーとして顧客に認知される」のような定性的な目標を掲げます。数字だけの目標と比べて、チーム全体が「なぜ」を共有できるようになります。

Key Results(主要な成果指標)に売上以外の指標を混ぜる 売上目標だけでなく、「顧客満足度スコア4.5以上」「新規提案数月20件」「チーム内ナレッジ共有セッション月2回開催」など、行動やプロセスに関する指標を含めます。これにより、結果だけでなくプロセスにも意識が向きます。

達成率60〜70%を「成功」とする OKRの特徴は、100%達成を前提としないことです。挑戦的な目標を掲げ、60〜70%の達成率でも評価する文化を作ります。これにより、「目標未達=失敗」という恐怖感が薄れ、メンバーがストレッチした目標に挑戦できるようになります。

ただし、注意点があります。OKRの達成率と人事評価を直結させてはいけません。直結させると、メンバーは達成しやすい低い目標を設定するようになり、OKRの意味がなくなります。

目標面談のコーチング的な進め方

目標面談を「数字の通告の場」から「対話の場」に変える、具体的な進め方を紹介します。所要時間は60分です。

ステップ1: 振り返り(15分)

前期の目標を一緒に振り返ります。数字の達否だけでなく、プロセスに焦点を当てます。

問いかけ例:

  • 「前期を振り返って、一番手応えがあったことは?」
  • 「もう一度やり直せるとしたら、何を変える?」
  • 「前期の経験で、次に活かせる学びは?」

ステップ2: 未来の対話(20分)

今期のビジョンと目標について対話します。組織の方針を伝えた上で、本人の意志を引き出します。

問いかけ例:

  • 「今期、営業として一番挑戦したいことは何?」
  • 「半年後、どんな状態になっていたら『いい半期だった』と思える?」
  • 「組織の目標と自分のやりたいことの接点はどこにある?」

ステップ3: 目標の具体化(15分)

対話を踏まえて、具体的な目標数値と行動計画を一緒に設定します。

問いかけ例:

  • 「その挑戦を数字で表すと、どのくらいの水準になる?」
  • 「その目標を達成するために、最初の1ヶ月で何をする?」
  • 「目標達成の障害になりそうなことは?それに対してどう備える?」

ステップ4: サポートの合意(10分)

マネージャーとしてどんな支援ができるかを確認し、合意します。

問いかけ例:

  • 「この目標に向かう上で、私(マネージャー)に期待することは?」
  • 「どんなタイミングで相談してほしい?」
  • 「1on1では何をテーマにしたい?」

まとめ

目標設定は、やり方を間違えるとチームを壊す凶器になります。しかし、対話を通じて目標を共創するプロセスを取り入れれば、目標は「やらされるもの」から「自分で選んだ挑戦」に変わります。

次の期初面談で、数字を伝える前に「今期、一番挑戦したいことは何?」と聞いてみてください。その一つの問いが、目標に対するメンバーの姿勢を根本から変える可能性があります。

よくある質問

トップダウンの目標設定の問題点は何ですか?
主に3つの弊害があります。自分が関与していない目標への「やらされ感」、月次・四半期の数字だけを追う「短期主義」、個人目標による協力の阻害で「チームが分断」されることです。目標が人を動かす力を失い、組織の活力を奪う装置に変わってしまいます。
コーチング型目標管理とは何ですか?
対話を通じてメンバーと目標を共創するアプローチです。組織として達成すべき数字は変えずに、なぜその目標なのかを対話し、達成方法は本人に委ね、進捗は管理ではなく支援するプロセスを設計します。目標が「やらされるもの」から「自分で選んだ挑戦」に変わります。
Will-Can-Mustフレームワークとは何ですか?
目標面談で使えるフレームワークで、Will(本人がやりたいこと)、Can(本人ができること)、Must(組織が求めること)の3つの円の重なる部分に目標を設定します。対話を通じて重なりを広げていくプロセスそのものに価値があります。
OKRを営業組織で導入する際のポイントは?
Objectiveは「売上1.5億円」のような数字ではなく定性的に設定し、Key Resultsには売上以外の指標(顧客満足度・提案数等)も混ぜます。達成率60〜70%を成功とする文化を作ることが重要ですが、OKRの達成率と人事評価を直結させないよう注意が必要です。

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